TOYU

画家になりたい女の子

 

 

 

画家を目指している女の子。

 

今日も作業台に向かって水彩画を描いていた。

 

だが納得のいく絵が描けない。

 

女の子はこのまま画家を目指していていいのか迷っていた。

 

まともな絵も描けない。

 

このままじゃ生活も続けられない。

 

 

 

 

 

路頭に迷っている時、天井からポタっと黒い滴が落ちてきた。

 

その滴はちょうど隣に置いてあった真っ白な画用紙に落ちた。

 

おそるおそる天井を見上げると、何もない。

 

いつもと変わらない天井だ。

 

不思議に思いながらも、絵の続きを描く。

 

するとまたポタっと黒い滴が落ちた。

 

天井を見る。

 

何もない。

 

 

 

 

 

奇妙な出来事に少し怖いと思ったが、絵を描かなければと絵に集中した。

 

その瞬間ボタボタボタッと雨が降ったかのような量の滴が落ちてきた。

 

隣の画用紙を見ると見たこともない美しい絵が描かれていた。

 

天井を見ても何もない。

 

怖さと同時に絵に感動していた。

 

こんなに素晴らしい絵は見たことがない。

 

黒色しか使われていないが繊細な濃淡で描かれている。

 

 

 

 

 

これは

 

使える

 

これは

 

私の絵だ

 

 

 

 

 

次のコンクールにこの絵を出すことにした。

 

コンクールの日。

 

女の子は自信に満ち溢れていた。

 

審査員の人々も驚きの顔で絵を見ており、女の子は喜んだ。

 

 

 

 

 

こんなに自分の絵で人を惹きつけたことはない

 

嬉しかった

 

 

 

 

 

コンクールは最優秀賞だった。

 

初めて絵を認めてもらえた。

 

これで立派な画家になれる。

 

これで画家として生きていける。

 

路頭に迷っていた女の子は自信がついた。

 

 

 

 

 

だが、あれからあの絵は描けなかった。

 

どんなに真似しようとあの繊細な絵は描けない。

 

当たり前だ。

 

自分で描いた絵ではないのだから。

 

あの時滴が落ちてきた場所に同じように真っ白な画用紙を置いてみた。

 

すると黒い滴が落ちてきた。

 

女の子は興奮した。

 

すぐに雨のような滴が降ってきて絵が完成した。

 

鳥肌が立つくらい素晴らしい絵だった。

 

女の子はこの絵に自分のサインを書き込み、今度はオークションに出してみた。

 

数日後、オークションを見てみると1000万円の値がついていた。

 

女の子は驚き、すぐに売った。

 

落札したその人は直接会って受け取りたいと言ってきた。

 

お金もその時に手渡しで払うとのことだ。

 

少し心配だったが、女の子はその条件を受け入れた。

 

 

 

 

 

次の日、落札した人と会うことになった。

 

その人は全身真っ黒な服、真っ黒な帽子で顔はよく見えなかった。

 

絵を渡したらすぐに絵を確認し、フフフッと笑った。

 

次の瞬間女の子の目の前で絵を破った。

 

女の子はあまりの衝撃でただ立ち尽くしていた。

 

その人は奇妙な声で

「ありがとう」

と言った。

 

お金が入った鞄を置き、立ち去っていった。

 

女の子はただ驚いていた。

 

だが少しずつ怒りが込み上げてきた。

 

あの傑作を破るなんて。

 

 

 

 

 

女の子は作業場に戻り、真っ白な画用紙を用意した。

 

天井を見つめた。

 

 

 

 

 

早く新しい傑作を

 

絵を完成させてくれ

 

もう一度あの人に持っていって突き渡すんだ

 

この傑作をわかってもらうんだ

 

早く

 

落ちてきて

 

 

 

 

 

しばらくたっても天井は何も変わらない。

 

意気消沈に下を見ると、画用紙は真っ黒に染められていた。

 

女の子は驚いて腰を抜かしてしまった。

 

真っ黒な画用紙は少しずつ濃淡が変わり、いつのまにか女の子の顔が描かれていった。

 

憎たらしい表情だった。

 

成功者の顔だった。

 

 

 

 

 

こんな顔私じゃない

 

 

 

 

 

女の子は立ち上がり、勢いよく絵を破った。

 

何度も何度も破った。

 

何の絵がわからなくなるほど細かく破った。

 

女の子の顔も原型がわからなくなるほどグシャグシャになっていた。

 

鞄の中には真っ黒な画用紙の残骸が山ほど入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた

 

4:32

 

外が少しずつ明るくなってきた

 

こんな時間に目が覚めるなんて

 

二度寝しよう

 

眠れない

 

目が冴えてしまったか

 

部屋は静かだ

 

物音一つしない

 

プツッ

 

何かが切れた

 

寝よう

 

4:39

 

何かの気配がする

 

絶対に今起きてはいけない

 

絶対に目を開けてはならない

 

寝なければ

 

怖くない

 

楽しいことを考えよう

 

目を開けたい

 

目を開けて確かめたい

 

ダメだ

 

目を開けてはならない

 

でも

 

目を開けたい

 

天井が見える

 

いつもの天井

 

いつもの部屋

 

なんだ

 

よかった

 

目を閉じた

 

真っ黒だ